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新たなスタート
<ゆっくり、のんびり>

 

「ごく普通の元気なお母さん」になるための新しい生活が始まった。サブリナは私を笑顔で迎えてくれた。37日間も離れて暮らしていたのに少しも私を忘れていなかった。入院前、忘れられるんじゃないかと泣く私に保健婦さんも主治医も「絶対忘れない。どれだけ離れたってサブリナのママはあなただけ。絶対大丈夫!」と断言した。それは嘘ではなかったのだ。

最初の一週間は母が手伝いに来てくれた。「赤ちゃんが寝たらあなたも寝なさい」と言われていたが、私は小さいときから「女の子はお昼寝はしてはいけない」としつけられた。母たるもの昼寝やのんびり過ごすことなど罪悪だ!と育ってしまったのである。実際私はそういう母を見たことがない。入院生活の中で昼寝の習慣が付いたが、母がいた一週間はやはり昼寝は出来なかった。
保健婦さんからサブリナを面倒見てくれたり、食事の準備を手伝ってくれたりする市の有償ボランティアを紹介してもらい一日2時間、ヘルパーさんに助けてもらうことになった。家族3人での生活に向け、準備を整えた。

一週間後、受診。主治医は私たちの環境整備を確認して、「頑張らないように」と言った。一般的に「産後うつ」にかかる産婦は真面目で几帳面な完璧主義者が多いという。「70点で合格。でもイキナリ70点は取れないからね。」
「あなたが思っている完璧なママにはなれないし、世界の何処を探してもいないよ。きっとあなたは十分良いママだよ。」「人がどうあれ、あなたがやれることをやれるようにやればいい。」と。

主治医の意見から私は自分の育児をするためにいくつか決まり事のようなものを作った。
1つ目は、世の中に氾濫する「育児の理想型」の情報を入れないこと。育児雑誌や育児番組を見るとあれもこれもと欲張って頑張ってしまう。全部やっていては身が持たないので私がやれることをやれるようにやるために。
2つ目は、ああした方が良い、こうした方が良いと世話をやくおばさん達に近づかないこと。10年違えば子育てだって様変わりするのに、自分が子育てしていた頃と同じようにさせようとする。右から左に聞き流せないのが私の性格である。彼女たちは好意で言ってくれるのは分かっているが「自分の娘さん達に言ってね。」と言いたくなるのは私だけ?
3つ目は、育児に悩んだ時に相談する相手を決めること。たくさんの人に聞けばそれだけたくさんの答えが返ってきて混乱してしまう。そのため、私は相談相手に担当の保健婦さんとサブリナのかかりつけの小児科医を選んだ。最新の情報を持っているだろうし、間違ったことは言わないと思ったから。

”人に出来、自分に出来ないことはない”と言うが、人に出来ても自分に出来ないことはあるのだ。その時の状態にもよるし、環境だって違う。おばあちゃんがいて夫の帰りも早いママが出来ることと、核家族で夫の帰りが遅いママがやれることは違う。前者のママとおばあちゃんがやっていることを後者のママが一人でやったら、多分長くは続かないし倒れてしまうだろう。誰かの子供と自分の子供を比べないのと同じように、誰かと自分をを比べない方が良い。親子が元気であることが一番!健康を失っては元も子もない。「人間あきらめが肝心」私は腹をくくったのである。

こんな風に私は自分とサブリナのことだけやるところから始めた。洗濯も掃除も主人が引き受けてくれた。最初から全てをこなすのではなく、あえて”やらない””がんばらない””サブリナが寝たら、自分も寝る”私にとっては罪悪ださえあった生活を始めることになる。

「ごく普通の元気なお母さん」に向け、最初の一歩を踏み出した。

                                             2002.5.27

 


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